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製作総指揮:細川佳代子
監督:小栗謙一
製作:able映画製作委員会 代表:近衞甯子
ドキュメンタリー劇場映画/90分/DCP/5.1ch/2020年春以降全国公開予定

「どんなに医学が進歩しても人間の2%から3%の人が知的障がいのある人として生まれてくるのです。それは、神様が私たちに優しさと思いやりの心を教えてくれるために贈ってくださったのです。」
これは、この映画のエグゼクティブ・プロデューサーである細川佳代子が30年ほど前にある牧師さんからお聞きした話です。
*地球上には、およそ1億8千万人(WHO報告)の知的障がいのある人々がいます。


私達の映画製作活動は、1998年から始まりました。それは多くの人々に知的障害のある人々への理解を深めていただき、ともに暮らしていく社会を見いだしていく一助となればとの願いからでした。有志によってable映画制作委員会(able Film Committee)が立ち上がり、多くの企業や一般の方々からのご寄付により、これまで5作品を世に出してきました。


第1作の「able」は、知的障がいのある日本の二人の少年がアメリカの家庭にホームステイし、学校や一般社会の中で自己の能力の可能性と向き合う物語でした。第2作の「Host Town」は、アイルランドで開催されたスペシャルオリンピックス夏季世界大会に参加した日本選手団を受け入れたホストタウン(New Bridge)の人々の物語でした。第3作の「Believe」は、日本で初めて開催されたスペシャルオリンピックス冬季世界大会・長野の記録を撮影したビリーブクルーというチーム名を持つ知的障がいのある9人の青年たちの活躍と成長過程を追った物語でした。第4作の「幸せの太鼓を響かせて〜INCLUSION〜」は、長崎県の社会福祉法人で暮らす知的障がいのある青年達が、リハビリで始めた和太鼓が生活を支えるまでに上達し、プロの奏者として活躍する姿と同時に日常の生活を描いたものでした。
これらの作品は、東京の一般映画館で数週間のロードショー公開の後、日本全国の劇場で公開され、また世界各地の映画祭でも上映し、文科省の特選や選定、また厚労省の文化財にも指定され、各地のホールや学校で今も上映されています。そして、第5作の「天心の譜」は、日本国内はもとより、ハンガリー、チェコ、イギリス、オランダなどで活躍する指揮者の小林研一郎氏が70歳の記念公演に31名の様々な障害のある演奏家とともにコンサートを実現させる過程を、障害のあるビリーブクルーと私達が共同で撮影した映画でした。実は、コンサート後の2011年3月に大震災が日本を襲い、この映画はその惨状とも向き合うことになりました。


今回の映画「Challenged ~困難な存在の日々、そして旅立ち~」は、知的障がいのある素晴らしいアーチストの姿を通して、未来への大きな希望として人々の心に響きわたるものを目指しています。その意味では、これまでの集大成と位置付く作品だと思っています。


主人公となるのは、第4作の「幸せの太鼓を響かせて〜INCLUSION〜」で和太鼓演奏を披露した瑞宝太鼓の7年後の姿です。当時のメンバーに新人が入り、12名となったチームは各地での演奏活動や地域の学校、施設でのリハビリの支援演奏など、彼らが生活している地域コミュニティの誇りとも言える存在のアーチストとして益々充実した日々を送っています。 そんな彼らに、フランスのナント市開催される「日仏障がい者文化芸術国際交流祭」から招待状が届きました。昨年の10月、フランスでも最大級のクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」が誕生した由緒あるホールシテ・デ・コングレで、この日のために1年以上をかけて練習を積んできた約10分の新曲を披露し、喝采を浴びたのです。
この映画は、瑞宝太鼓がフランス・ナントの大舞台で素晴らしい演奏を世界の空に響かせる感動の物語であることはもちろんなのですが、真の目的はそこに止まりません。
彼らの今に至るまでの道のりが、容易なものでなかったことは当然のことです。むしろ困難なものでした。今は地域の人々に包まれ、生き生きと暮らしていても、30年ほど前は、彼らがこの地域に生活することすら歓迎されず、そのような困難な存在の日々から懸命な努力で今を作り上げてきた歴史があります。それがどんなものであったのか、作品ではこのような経緯と地域の人々が当時抱いた気持ちの変化を辿利ながら、自らの心の中に問いかけてみたいと思います。
もともと私たち人間の社会は、長い間、障害のある人々へ偏見と差別の時代を許してきました。ドイツのナチによるT4作戦と呼ばれる障害者への殺戮は暗い時代の象徴的な出来事であり、ノーマライゼーションの考え方が生まれた北欧においてさえも長い隔離政策の時代がありました。その後も収容型の大型施設がつい十数年前まで世界中に存在してきたのです。この半世紀、様々な人々の叡智と行動によって幾つもの変革を経て世界の情勢は変わってきました。その変遷を辿りながらINCLUSIONを目指す考え方に基ずく現代社会の行く道を見つめたいと思います。


本映画では、瑞宝太鼓と同じようにプロとして自らの道を切り開く活動をするフランスのヒップホップグループのアーティピック(Artypique)やベルリンを中心に演劇活動をするランバ・ツァンバ(RambaZamba theater)の人々、さらに知的障害者としての生きる権利を障害のある自らの力で確立すべく、国会議員を目指すスウェーデンの女性など、その活動と独自の人生の考え方を見つめます。

 

この映画は、2020年春以降全国公開予定です。

2018年2月
製作総指揮:細川佳代子
   監督:小栗謙一