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コメント

■監督:小栗 謙一 Ken'ichi Oguri

映画『able』は、多くの支援者の寄付金だけで制作された。こんな事、最初は無理だと思っていた。しかし、プロデューサーの細川佳代子さんだけは、本気でできると言った。そして、そのとおりできた。つまり、映画製作そのものが「able」だったのだ。だからと言うわけでもないが、この映画を見ると、私自身もたくさんの事が話したくなる。障がいのこと、コミュニケーションのこと、家族のこと、友達のこと、アメリカという社会のこと、日本の社会のこと、人間の個性のこと、魅力、可能性のこと。そして、映画の作り方のこと... 。
この映画には、http://www.film-able.comというホームページがある。東京のシアター、イメージフォーラムでロードショーが始まってからは、この掲示板には毎日いろいろな意見が自由に書き込まれている。それを見るだけでも、人それぞれ、実にたくさんの感じ方があり、さまざまな人生があることがわかる。
映画化の始まりは、99年、ノースカロライナ州で開催されたスペシャルオリンピックス世界大会をTV取材した時だった。会場に集まった観衆の誰もが、”障がい者のために良いことをしよう””障がい者を支援しよう”といった気持ちからではなく、障がい者スポーツの祭典を創りだす喜びを楽しみに参加している事に心動かされたのだ。これは以後、私の中で、”ボランティアの定義”となっている。「ボランティアは自己犠牲の上に発想してはならず、自分にとってプラスの喜びを伴っている行動である」と。
そして、もう一つ、この映画のキーワードともいえる重要な言葉が、スペシャルオリンピックス創設者ユーニス・ケネディ・シュライバーのこんな演説にあった。
「障がい者は、できないのではない。社会が彼らをできないと思って、できなくさせているのだ」と... 。
私は、映画の構想から製作に至るまで、常にこの言葉が頭から離れなかった。それはこの映画の役割に大きく関係していたからだ。私達の社会が障がいのある人にとって優しいとは言いがたい。法環境においても、都市構想においても、また、人間心理の面においても、まだまだ目指さなければならない状況は枚挙にいとまが無い。一歩街に出れば、その現実にすぐ気がつくのだが、いちいち腹を立て告発する映画を作っても哀しくなる。
それならば、その先の可能性に目を向けて見てはどうか... 。キャサリンとマークという素敵なホストファミリーに支えられながら、三ヶ月にわたるアメリカのアリゾナでの生活をした渡辺元君と高橋淳君は立派にその大役を果たしてくれた。

■製作総指揮:細川 佳代子 Kayoko Hosokawa

11年前の夏のある朝、当時住んでおりました熊本の地方紙が伝えた、ある少女のスペシャルオリンピックス世界大会銀メダル獲得の記事が、私の人生を変えました。以来このボランティア活動の普及発展のため、どれだけのエネルギーを使ったか計り知れません。
それでも、まだ精一杯楽しく続けておりますのは、アスリート達(スペシャルオリンピックスに参加している知的発達障がい者の方々)の魅力のおかげです。当初、私は知的発達障がいへの理解不足から偏見と心のバリアを持っていました。彼らを気の毒で不幸な人達と思っていました。
しかしスペシャルオリンピックス運動を通して彼らと親交を深めるに従って、いつの間にか心のバリアは取り除かれ、逆に彼らのおかげで物の見方、価値基準、人生観まで変わっていきました。私だけではなく、一人でも多くの方々とこの喜びを分かち合いたい、そんな熱い思いで活動を進めてきましたが、草の根のボランティア活動でこの運動を広めるのは至難のわざのことでした。幸いにも小栗監督とめぐり会い、映画製作を決意しました。スペシャルオリンピックス運動、そしてこの映画の性格を考えた時、一人でも多くの方にお声をかけ協力をお願いして製作費を集めることに意味があると思いました。その結果一万人を超える方々の協力やご寄付を賜り感謝にたえません。
一方、二人のスーパースターと文句の云い様も無い素敵なホストファミリーが見つかり、期待以上の素晴らしい映画が完成したことは、人知を超える不思議さを思わずにいられません。映画を見た方が人間の「エイブル」可能性に目覚め、生きる喜びと希望を持って輝いて下さることを願ってやみません。

■ホストマザー:キャサリン・ルビ Kathleen Rubi (Arizona State Director Best Buddies international)

My husband and I were destined to meet Gen and Jun. This we know. One day We wereworking professionals with no time to have fun or laugh. We were always worried about our bills, our relationships with friends and advancing in our careers. When we found out about this film we decided to do it and I am not sure why, We didn't know Gen and Jun. We didn't know Japanese. We didn't know too much about people with disabilities and we certainly didn't know how to be parents. We were still trying to figure out how to take care of ourselves and be responsible adults. I guess in a way, you always see yourself as a child until you have some of your own.
Well, we said yes and couldn't believe we did. We actually suprised ourselves. We decided not to talk about it, not to worry ourselves with it and not to analyze it. We just waited for the young men to arrive and that is when life as we knew it changed.
Our message is not one about the film. Our message is to open your heart and realize that we are all very similar no matter what we look like on the outside. It is like holding a brown egg in one hand and a speckide egg in another hand.Inside they are both made of the same thing. We think this film has captured that very important message and it has changed the way we view the world and the people in it.

夫と私はゲンとジュンに出会う運命にあったのです。本当にそうだと思います。それまで私達夫婦はとても仕事に忙しく、一緒に笑ったり楽しんだりする暇が全くありませんでした。そしていつもお金の事や、家計のこと、友人との人間関係や、仕事でのキャリアを伸ばす事ばかり考えていました。
そんな時、私達はこの映画の事を知り、そして何故だかわかりませんが、私達は(ホストファミリーを)やってみようと思ったのです。でも私達はゲンやジュンの事を全く知りませんでしたし、日本の事もよく分かりませんでした。また障がいを持った人たちについても殆ど知りませんでしたし、その子供たちの親になるのはどういうことかということも、さっぱり分かりませんでした。私達は自分達のことだけで精一杯で、いかに責任ある大人として振る舞うかという様なことばかり考えていました。きっと実際に子供を持ってみないと、いつまでも自分自身を子どもの様にしか考えられないものなのでしょう。私達はきちんとやれるかどうか分かりませんでしたが、ともあれ彼等を引き受けようと返事をしました。
しかし実際には私達は自分たち自身の変化に驚かされました。私達はお互いに、ちゃんとつとめを果たせるかどうかといった事についてはあえて話さないようにし、その事について自分自身で悩んだり、もしくは自分達で分析しあったりするのはやめよう、と決めました。そしてただ素直に彼らがやって来るのを待っていました。そして彼等が私達のもとにやってきたその時から、私達の人生は変わったのです。
このコメントは映画「able」に関する事ではなくなってしまいました。しかし私達は、人はどんな見かけや外見であっても、本当はみんな同じなのだという事をわかってもらいたいと思います。それは例えば、片手には茶色の卵を、もう片手にはまだら模様の卵を抱えている様なものかもしれません。どちらの卵も中味はまったく同じなのです。この映画は、世の中や人を見つめる視点をきっと変えてくれる、とても大切なメッセージを持っているのだと思います。