PRODUCTION | 制作ノート
able / エイブル

HOST TOWN / ホストタウン

Believe / ビリーブ

幸せの太鼓を響かせて~INCLUSION〜

Challenged / チャレンジド









『able』から『Challenged』へ … 20年のあゆみ

1998年 

ベルリンの壁が崩壊した1989年以降度々ドイツを訪れていた監督・小栗謙一は、あるTV番組の取材で、ヒトラーがT4計画において多くの障がいのある人々を殺戮した事実に接し、激しい衝撃を受ける。
同年、細川佳代子と出会い、氏が進める「障がいのある人々の自立と社会参加」を目指すボランティア活動の意義に、小栗は強く共感する。

1999年 

細川の勧めで、スペシャルオリンピックス夏季世界大会ノースカロライナを取材。想像をはるかに超える開会式のスケールと内容の濃さに圧倒されると共に、創立者、ユニス・ケネディ・シュライバーの「障がい者は出来ないのではない。社会が出来ないと決め、出来なくさせているのだ」との言葉に感動を覚える。

2000年 

知的障がいのある人々への「社会の偏見と無理解をなくし、障がいのある人が普通の社会で生き生きと暮らすこと」を見つめ、そんな社会づくりの一助となる映画製作を目的としたable映画製作基金が立ち上がり、製作総指揮を細川佳代子、監督を小栗謙一が務め、映画『able / エイブル』の製作が開始。

2001年 

アメリカの新婚家庭に3ヶ月間ホームステイした二人の障がいのある日本の少年が高校や職業訓練所などに通いながらアメリカの社会を体験する映画『able』が完成。シアター・イメージフォーラム他全国でable映画製作委員会の第1作として公開。

2002年 
ベルリンに、知的障がいのあるダウン症の人たちの劇団、ランバ・ツァンバのことを知った小栗は興味を持ち連絡をとるが取材には至らない。

2003年 
able映画製作委員会(代表 近衞甯子)が設立され、スペシャルオリンピックス夏季世界大会・アイルランドの日本のアスリートを追った映画『HOST TOWN / ホストタウン』をable シリーズの第2作として製作、公開。

2005年 
スペシャルオリンピックス冬季世界大会・長野の記録を知的障がいのある9人の撮影クルー(ビリーブクルー)と共に製作した『Believe / ビリーブ』を第3作として公開。

2010年 

ある日、細川の誘いで島原半島へ。長崎県雲仙市にある日本国内で先進的と言われる社会福祉法人南高愛隣会を訪ねる。障害のある人が様々な職業につき、殆どがグループホームで暮らし、結婚して家庭をもつ人もいる地域社会。その中で、瑞宝太鼓というプロの和太鼓チームと出会う。

2011年 

瑞宝太鼓の活躍を追うドキュメンタリー映画『幸せの太鼓を響かせて~INCLUSION〜』が、able映画製作委員会の第4作目として完成した。映画の中で彼らが演奏するのは、時勝矢一路作曲の7分に及ぶ「漸進打波」。角川シネマ他で公開される。

2015年 

夏、フランスのナント市で開催される2017年ジャパン×ナントプロジェクト(主催:障害者の文化芸術国際交流事業実行委員会)の芸術祭で瑞宝太鼓が演奏するというニュースが時勝矢一路氏からもたらされ、第5作として構想を始める。

2016年 

1月、フランスで披露する曲「天地長久」の譜面が完成し、最初の練習が始まる。長崎県雲仙市瑞穂町で瑞宝太鼓のロケもクランクイン。
同年、瑞宝太鼓と時勝矢一路の稽古が始まる。兵庫県に住む時勝矢が雲仙市瑞穂町に来る時は、ほとんどが車でやってくる。それは、大きな譜面板など小道具類を積んで来るからだが、稽古をアシストする妻の亜鷺幸さんと娘の未有希さんも一緒だからだ。三人は、生活も仕事でもいつも一緒、NYなどの海外公演なども演者として共演する太鼓奏者家族でもある。
すでに、前回の映画から6年が経つ。稽古は継続して続けられていたため、久し振りの稽古では無いが、瑞宝太鼓に新人のメンバーも加わっているだけに緊張感に満ちている。フランスで叩く 新曲は、4つの構成要素から成る12分の大作「天地長久」である。
この日から約1年半に渡り、幾通りもの打方の繰り返し練習が毎日続くことになる。

2017年 

5月、2001年に瑞宝太鼓がプロとなった時からメンバーの1人である山下弾が、長い間想い憧れの君だった絵里子さんと結婚した。彼女は同じ南高愛隣会の利用者で、配食・給食センター「味彩花」で働いている。
8月、2ヶ月後の本番に向けて時勝矢さんによる夏稽古が始まる。9月、南高愛隣会を創設し、利用者みんなの父親役でもある田島良昭顧問に話を聴く。なんと、7時間にわたるロングインタビューとなる。興味深い話の中に登場した幾人もの魅力的な人に取材。「数日の命」と言われ数十年たった今も笑顔で生活する清水武寿さん。日本最初のグループホームの土地の提供者となった福田さんのエピソードへの取材が進む。
瑞宝太鼓団長の岩本家では長男裕樹が中学に進学するにあたり、普通学校か特別支援学校か、また家から通うか寄宿にするかの判断に迷っていた。ケアスタッフも判断に苦慮。みんなの心配の渦の中で、寄宿舎制の 特別支援学校を親子三人で見学に出かけることに。
この頃、小栗が福祉先進国と言われるスウェーデンへの調査・ロケハンに出る。10月、いよいよナント公演を撮影。スタッフは自炊生活のできる一軒家を借り、瑞宝太鼓メンバーのナント生活からリハーサル、日本庭園でのデモンストレーション、リュー・ユニックで開催されたアール・ブリュット展。そして、シテ・デ・コングレでの公演では、病気療養でホールに来ることのできない子供たちに瑞宝太鼓の演奏を映像で届ける為、日本から同行した遠隔ロボットOriHimeが活躍する。
公演終了。大歓声の中に、感動で興奮したアーティピックのシャルルの姿があった。11月、秋の雲仙市では、日本の秋らしい風景の中、マラソン大会に裕樹くんの姿。フランスから帰ったばかりの新婚の山下弾・絵里子家を訪ねる。

2018年 

4月、岩本裕樹くんが中学校に入学し、初めて親子離れての寄宿舎生活がはじまる。
ドイツロケは、ベルリンのランバ・ツァンバ劇場。小栗にとって、彼らの事を知ってから16年間も会いたいと思っていた対象者の稽古場を取材。そして、再び訪れることはないと思っていたT4のハダマーに20年ぶりに訪れて取材。
5月、ランバ・ツァンバによる「白鯨」の舞台公演を撮影。
6月、フランスのアーティピックの日常、そしてパリのESAT を取材。
8月、久し振りの瑞宝太鼓の取材をすると、彼等は、オリンピック、パラリンピックの2020年に向けた新曲「"WA" The Nippon」の稽古に夢中。

2019年 
5月、アポイント取りに難航し、諦め掛けていたスウェーデン・ヨーテボリ市にあるグルンデン協会が取材をOKし、活動家、エミリー・ムテーンを中心に政治活動や障がいのある人々の日常と今後の展望を見る。